室内楽作品の少ない(約20曲)リストではあるが、ヴァイオリンとピアノの為に書かれた価値ある作品が最近注目され始めている。1963年に楽譜が発見されたデュオソナタをはじめ、リストのオリジナル曲をもとにしたトランスクリプションを紹介したい。
ヴィルトゥオーソ時代に作曲された「デュオソナタ」はまさにヴァイオリンとピアノの競奏曲。もちろん彼らしい技巧的処理が満載で、リストにありがちな構成の“とめどなさ”は否めないものの、その主題は民謡ベースで詩情溢れるものとなっているし、もちろん熱情もたっぷりで聴く者を魅了する。
ハンガリー出身の詩人レーナウ詩によるリスト自身の同名の歌曲からの移植作品「3人のジプシー」。ロマの自由奔放を羨む歌詞にはジプシーヴァイオリンが登場しており、自然発生的に生まれたとも言えるこの編曲はまるでオリジナル作品のようである。
かねてから宗教音楽への関心が高かったリストは、ローマで僧籍に入った翌年の1867年「ハンガリー戴冠式ミサ」を作曲する。その中からヴァイオリンソロが登場する「オッフェルトリウム」(他1曲)をピアノとの編曲に書き換えている。
ヨーロッパ中を駆け巡ったピアニスト時代、宮廷楽長を務めたヴァイマール時代を経てたどり着いたローマでの生活は彼に充実した時間と安らぎを与えたのであろう。宗教曲ゆえに無駄を削ぎ落としながらも、しかし内には確かに情熱を秘めたリスト音楽の一つの完成形がここにある。